比例限度とは
材料の応力ひずみ曲線において、はじめのうちの応力とひずみとが正比例の関係を保つ範囲の応力限界のことを比例限度といいます。
応力とひずみが正比例の関係を保つ範囲とは、言い換えると
- フックの法則が成り立っている範囲
- ヤング率(縦弾性係数)の通りに直線が引ける範囲
とも言えます、これらは全て同じ意味です。
そして、この範囲を超えるとフックの法則が成り立たなくなり、応力ひずみ曲線が少しヘタって、ひずみのほうがやや伸びるようになります。
そしてしばらくすると弾性限度に到達します。
比例限度の求め方
0.2%耐力を求める方法と同じで、それのひずみ値だけを変えればいいです、オフセット法です。
仮に比例限度を0.02%耐力とするならば、ひずみ0.02%のところからヤング率に等しい直線を引張って、その直線と引張り曲線との交点を比例限度とすればよいです。
※これはあくまで理解のために大げさに描いた図です。そもそも比例限度はフックの法則が成り立つような範囲の限界値のことを言うので、ほぼ直線であり非常に分かりづらいです、だからこそ「0.02%」のように敢えて定義して求める必要があります。
比例限度を超える=塑性変形なのか?
上記のように比例限度とは、フックの法則が成り立つ/成り立たないの境界のことを意味しています。
そう聞いた上で、では比例限度を超えるとどうなるのか?を考えると、フックの法則が成り立たなくなる=弾性体と見做せなくなる=塑性変形が起こる!
と思ってしまいがちですが、厳密にはそうではありません。
塑性変形が起こる/起こらないの境界は弾性限度として別に定義されています。
比例限度とはあくまで、応力 - 歪みの線形関係が成り立たなくなる境界のことです。
これは原子間に働く力を表したモースポテンシャルの微分系を見れば理解できます。
このグラフは二原子間に働く力の距離依存性を示しています。
ある二つの原子を近づけていったとき、はじめは互いの万有引力で引き付けあうのですが、あまり近づけすぎると今度は電子同士が反発しあうようになります。
この引き付けあう力と反発しあう力が釣り合う点(原子間力が0になる点)が、その温度における平均原子間距離そのものであり、その点における傾きがヤング率です。
このグラフはもちろん力vs距離のグラフなので、応力ひずみ曲線と同じ次元です。
そして、このグラフの原子間力0における接線の傾きは、ある範囲内ではほぼ直線で表すことができるので、それがヤング率が一次関数で表せる理由であり、その直線が成り立つ範囲のことが比例限度となるのです。これが比例限度の考え方です。
なので本来は材料を引張って行ったとき、このモースポテンシャルの微分系と同じ曲線を描くはずですが、実際にはそこで加えられた力によって転位が移動し始めるので、塑性変形や降伏といった現象が起こるのです。
その塑性変形が始まる点は弾性限度であり、降伏が起こる点は降伏点と呼ばれます。比例限度とは異なる現象なので区別してください。