コットレル雰囲気とは
たとえばFe-C系の合金のように、固溶元素(C)の原子半径がメインの原子(Fe)よりも大幅に小さい場合、固溶元素は侵入型原子として存在するため、刃状転位の隙間へと集まってきます。
これをコットレル雰囲気といいます。
似たような言葉としてコットレル固着やコットレル効果といった単語もありますが……
私の解釈では
コットレル雰囲気:固着によって作られる応力場のこと
コットレル固着:固着している状態そのもののこと
コットレル効果:固着によって機械的性質が変わること
を指していると思います。細かい話でスミマセン。
なぜコットレル雰囲気が起こるのか
これを説明するためには、そもそも転位の周りの応力場がどうなっているのか?を考える必要があります。
転位の下、つまり余剰半面(Extra Half Plane)の反対側には、本来であれば存在するはずであったFe原子が存在しないため、原子(の周りの自由電子)同士が反発しあう力が相対的に弱まっています(引張応力)。
逆に、転位の余剰半面側では、転位が存在することによってやや窮屈な格子ひずみが発生しており、そのため相対的に原子同士が反発しあう力が強まっています(圧縮応力)。
このため転位の下側、つまり引張の応力場が発生しているところでポテンシャルの谷ができ、その不安定な状態をかき消そうとして侵入型原子が集まってくるわけですね。
炭素原子側としては、正規のFe格子間に無理やり入り込むよりも、転位の下側の空いている席に座るほうが全然エネルギー的に安定するわけです。
こうやってコットレル雰囲気が出来上がります。
コットレル雰囲気が起こるとどうなるのか
このようにして固溶原子が転位の周りに集まってくると、転位周りの不安定な応力場が緩和されるため、つまり本来の完全結晶へと向かう側の変化が起こるわけです。
早い話が転位が動きづらくなるため、よって材料も変形しにくくなる=硬くなるんですね。
転位の移動(=材料の変形)とは、転位の下に存在している引張の応力場に隣接する原子面が吸い込まれることによって起こります。言い換えれば、転位の上に存在している圧縮の応力場に余剰半面が押し出されることによって転位が移動するわけです。
そこに侵入型原子が入ってきて格子ひずみを緩和してしまうと、せっかくの変形の駆動力となっていた応力場が和らいでしまうため、転位が移動しにくくなる=材料が変形しにくくなる=硬くなるのです。
一例が上降伏点
コットレル効果によって表れる機械的性質の一つとして軟鋼などの引張り曲線における上降伏点の出現が挙げられます。
これはコットレル固着により転位が動きにくくなる=可動転位密度が下がることにより、一時的に材料が硬くなる、つまり降伏応力が上がる現象です。
ただ、コットレル効果によって転位が動きづらくなるのはあくまで最初の一歩の話であり、いったん動き出してしまえば炭素原子を置いてきぼりにして転位が移動できるので、変形に必要なせん断応力は通常通りに戻ります。だから上降伏点が観察された後、いったん引張り曲線は下がるのです。
そして上降伏点を経た後しばらくは、応力が転位の移動に使われるのでなく、多数の転移のコットレル固着を振り切るための最初の一歩に使われるので、しばらく応力が上昇せずひずみだけが増えることになります、これが下降伏点です。