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降伏点とは何か?上・下降伏点が表れる理由、表れない材料

投稿日:2017年7月30日 更新日:

降伏点とは

まずは例として一般的な金属材料の応力ひずみ曲線を書いてみました。

このように材料を引張った時、応力が一度ガクンと下がる現象が起こります。材料がヘタるというか。この現象が降伏であり、曲線上で降伏を示している点のことを降伏点と呼びます。

またその時の応力値を降伏応力と呼んだりします。

 

そしてここからが本題ですが、一部の金属(軟鋼など)は、もう少しややこしい曲線になります。

このように軟鋼などの材料では降伏が二段階に分かれて表れます。この場合、まず初めのガクッと応力が下がる点上降伏点と呼び、次に試験片を引張っても応力が増加せず歪みだけが増える領域のことを下降伏点と呼びます。

また、このような材料で単に「降伏点」と言う場合には上降伏点のことを指します。

 

降伏点に関する誤解

よく降伏点のことを「塑性変形が始まる点」と説明している文章を見かけます。

たしかに簡単のための理解を促す説明としてはそれでも良いとは思いますが、正確にはその「塑性変形が始まる点」のことは弾性限度と呼びます。これは降伏点より前に来る点です。

それと異なり、降伏点とは

一般的な金属の場合(上降伏点を示さない材料の場合):0.2%耐力を示す点

軟鋼などの場合(上降伏点を示す材料の場合):上降伏点

です。

弾性限度と降伏点とが本来違うものだということは普通の金属の場合は理解できると思います、そもそも降伏点=0.2%耐力の定義からして「0.2%の永久ひずみが表れる点」のことを指しているわけですから。降伏が表れたその瞬間よりも、定義上の降伏点のほうが後に来ることは当然です。

しかし軟鋼などの場合も同じく、弾性限度よりも降伏点のほうが後に現れるんです。

つまり、塑性変形をしているのにも関わらず、明確な降伏(上降伏点)までは至っていないという絶妙な領域があるということですね。

ここではいったい何が起こっているのか?

それはなぜ材料に上降伏点が表れるのかを知れば説明できます。

 

上・下降伏点が表れる理由、それはコットレル固着にあり

アルミニウム、チタン、ニッケル等の合金の場合、材料の強化に用いられる原子は置換型が主流であるのに対し、軟鋼の場合、炭素や窒素などの固溶原子はメインの鉄に比べてはるかに小さいです。

そのためこれらの添加元素は鉄原子の空隙に侵入型として存在するようになります。

そして侵入した原子はどこへ行くのかというと、エネルギー的に不安定な場所に集まり、熱力学的に安定な状態へと導こうとするわけです。

ではその不安定な場所とはどこか?というと、つまり転位ですよね。

転位の周りに炭素原子が集まると、本来転位が動く駆動力となるはずであった不安定な応力場が緩和されるため、転位が動きにくくなる=可動転位密度が下がる=変形しにくくなる=強度が上がるわけです。

この現象をコットレル固着といいます。

絵がヘタクソですみませんね……私の画力ではこれが限界でした。機会があればちゃんとしたソフトとかで描き直します。

話は戻って。

つまり、材料を引張って行くと、まずコットレル固着を受けていない一部の可動転位が動き出す(弾性限度)。この時はまだコットレル固着によって束縛された転位は動いていない。

そして次の段階として、コットレル固着の状態にあった転位が、まるでダムが決壊するかのように一斉に動き出す(上降伏点)。決壊後は多数の転位が急に動き出すため、いったん応力は低下する。

そして上降伏点を超えたら転位がコットレル固着を振り切って動き出す。この時加えられた応力は転位が動くために使われるのではなく、転位がコットレル固着を振り切るために使われる。だから歪みは増えているのに応力は増えない(下降伏点)。

イメージとしては力学の動摩擦・静止摩擦の関係に似ています。滑りだすまでは大変だけども、一旦滑りだすと楽に動けるので実は動摩擦係数のほうが小さいという、あのイメージです。

これが軟鋼などで上降伏点・下降伏点が表れるプロセスであり、同時に転位がコットレル固着を受けない他の非鉄金属で上・下降伏点が表れない理由でもあります。

 

最後に問題

コットレル固着のメカニズムが理解できたかどうかの確認として、よく見かける問題を例にして解いてみましょう。

問題

試験片として工業用純鉄を用い引張試験を行ったが、降伏が起きた後に一度引っ張るのをやめた。その後直ちに引張試験を再開した場合、どのような応力ひずみ曲線を描くか?
 

「直ちに」がポイントですね。

降伏が起きた後なので、コットレル固着は全て振り切った後だということになります。つまり、コットレル固着がない場合に引張試験を行うとどうなるか?を考えているわけです。

「直ちに」とは要するに、「時間が経って熱力学的に安定な状態に遷移する前に、つまり炭素原子が再び転位の周りに集まる前に」引張試験を行う、ということです。

ここまで来ると状況は見えてきますね。

コットレル固着がない状態での引張りなので、結局は非鉄金属と同じような、普通の引張り曲線を描くことになるわけです。

こんな感じです。

 

ちなみにここでいう純鉄とはあくまで市販されている物のことでありますから、炭素は含まれているやつのことです。

本来の意味での純鉄、つまり超高純度鉄(C、N<1ppm)の場合、侵入型原子が少なすぎるためにやはりコットレル固着は起こらないので、上降伏点や下降伏点は表れません。普通の非鉄金属のような引張り曲線になるわけです。

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