有理化の問題を解くにあたってまず心がけておくことがあります。それは「あらゆる有理化の問題は絶対に解ける」ということです。
有理化の問題を見た時、心がくじけそうになるでしょう。なんか分母にルートがいっぱい入っているし。「こんな複雑そうな式、本当に有理化できるのか?」という気持ちになる。
しかし、当然のことではあるのですが、有理化できないのに「有理化せよ」なんて言う問題は無いです。
なので問題を解くにあたっては「絶対に有理化できる」という確固たる信念をもって計算を突き進めること、これが有理化問題を攻略する一番の秘訣です(精神論)。
ではまず有理化の基本中の基本から確認していきます。
問
おさらいとして、改めてルート(根号)の性質を確認しておきましょう。早い話が「2乗したら中身が出てくる」というものです。
$(\sqrt{a})^2=a$
逆に言えば、中身を出したかったら2回かければいいのです。これが有理化問題の考え方です。これ以上でもこれ以下でもないです。
「中身を出すために2回かける」ことが有理化問題の鉄則であり、だからこそ「絶対に中身を出せる」という確固たる信念を持つことが大事なんです(精神論)。
では問の計算をしていきましょう。
$\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}=\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\times \displaystyle\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{2}}= \frac{\sqrt{2}}{2} $
考え方としては、分母の $\sqrt{2}$ を出したいから同じく分母に$\sqrt{2}$をかけているわけですが、ここでポイントとなるのはかけてもよい数は1のみであるということです。
問題で求められているのはあくまで「式を簡単にすること」であって、式の値を変えることは許されていないのです。
なので、まずは分母を簡単にするために分母に $\sqrt{2}$ をかける。でもそのままだと式の値が変わってしまうから、帳尻を合わせるために分子にも $\sqrt{2}$ を乗せる。これは約分すれば1になるので1をかけていることと同じですよね。つまり式の値は変わっていない。こうやって式の値を変えずに分母からルートを外すこと、これが有理化の作法です。
以上の事を踏まえて、徐々にステップアップしながら問題に取り組んでいきましょう。
問
これを有理化するにあたっては、まず因数分解についておさらいしておく必要があります。因数分解を勉強していた時に散々使ったであろう以下の関係を思い出してください。
$(x+y)(x-y)=x^2-y^2$
これは有理化にも使えます。つまり
$(\sqrt{a}+\sqrt{b})(\sqrt{a}-\sqrt{b})=a-b$
こういうことです。これを上の問に適用して考えると、分母の $\sqrt{3}+1$ を外したければ分母に $\sqrt{3}-1$ をかければいい、ということがわかります。
ここまでわかれば後は実際に計算するだけです。
$\displaystyle\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}+1}=\displaystyle\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}+1}\times \displaystyle\frac{\sqrt{3}-1}{\sqrt{3}-1}=\displaystyle\frac{\sqrt{2}(\sqrt3-1)}{3-1}=\displaystyle\frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}$
これで有理化ができました。
ここで使った関係 $(\sqrt{a}+\sqrt{b})(\sqrt{a}-\sqrt{b})=a-b$ は有理化問題を解くうえで唯一にして最大の武器となる考え方なので常に思い出してください。難しいことはありません。見た目こそ違えど、やっていることは因数分解の $(x+y)(x-y)=x^2-y^2$ と同じなのですから。
では次の問題にいきましょう。
問
この問題を見た時、計算を進めるうえで2つのパターンがあることに気付き迷うはずです。各項の有理化から始めるべきか?それとも通分から始めるべきか?
迷ったときは有理化とはそもそも何なのかという原則に立ち返って下さい。有理化とは式を簡単にすること=見た目を奇麗にすることです。式を簡単にする方向で頑張るのが正しいので、この場合は各項の有理化からまず始めるべきです。1つ前の問題を思い出してみると
$\displaystyle\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}+1}=\displaystyle\frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}$
こういう結果が得られていました。こうやって各項の有理化をすることで分母を簡単にし、そのうえで通分して式をまとめるのが簡単そうだということに気づくでしょう。
ウッカリ通分から始めてしまうとメチャメチャ計算が複雑になってしまい急激に萎えるので、各項の有理化から先に手を付けるべき問題です。それでは解いていきましょう。
$\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{\sqrt{2}-2}-\displaystyle\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}-\sqrt{5}}$
$=\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{\sqrt{2}-2}\times \displaystyle\frac{\sqrt{2}+2}{\sqrt{2}+2}-\displaystyle\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}-\sqrt{5}}\times \displaystyle\frac{\sqrt{3}+\sqrt{5}}{\sqrt{3}+\sqrt{5}}$
$=\displaystyle\frac{\sqrt{3}(\sqrt{2}+2)}{2-4}-\displaystyle\frac{\sqrt{2}(\sqrt{3}+\sqrt{5})}{3-5}$
$=-\displaystyle\frac{\sqrt{6}+2\sqrt{3}}{2}+\displaystyle\frac{\sqrt{6}+\sqrt{10}}{2}$
$=\displaystyle\frac{-\sqrt{6}-2\sqrt{3}+\sqrt{6}+\sqrt{10}}{2}$
$=\displaystyle\frac{2\sqrt{3}+\sqrt{10}}{2}$
これで完成。では次はもう少し複雑なものを。
問
いよいよ面倒くさくなってきましたが、有理化はとにかく計算あるのみです。テストで出される有理化の問題というのは「この面倒臭さに耐えられるか?」を試してきている問題なので、臆することなく計算にチャレンジすべきです。
さて、この問題を見た時、はじめての方は混乱するかもしれません。「なんか知らんけど分母に3つある!」と思って急激に萎えが襲ってくることでしょう。
しかし心配はご無用。まずは気持ちを落ち着かせて、有理化をするにあたって最大の武器である関係式 $(\sqrt{a}+\sqrt{b})(\sqrt{a}-\sqrt{b})=a-b$ に立ち返ればこれすら解けるのです。
どうやってこの式を使うのか?それは無理やり当てはめればいいんです。
どうするかというと、分母に着目してみると $\sqrt{4}-\sqrt{3}-\sqrt{2}$ ですが、これを $(\sqrt{4}-\sqrt{3})-\sqrt{2}$ の2項式と見なすんです。
そうすると $(\sqrt{4}-\sqrt{3})+\sqrt{2}$ をかければいいことがわかる。どこを選んで2項式にするかはどっちでもいいです、$\sqrt{4}-(\sqrt{3}-\sqrt{2})$ とかでもいいです。好きなように選んでみてください。
大事なのは $(\sqrt{a}+\sqrt{b})(\sqrt{a}-\sqrt{b})=a-b$ の関係式に無理やり当てはめるということです。
それで本当に有理化できるのか?と思うかもしれませんがこれは解いてみれば確認できます。早速計算していきましょう。
$\displaystyle\frac{1}{\sqrt{4}-\sqrt{3}-\sqrt{2}}$
$=\displaystyle\frac{1}{(\sqrt{4}-\sqrt{3})-\sqrt{2}}\times \displaystyle\frac{(\sqrt{4}-\sqrt{3})+\sqrt{2}}{(\sqrt{4}-\sqrt{3})+\sqrt{2}}$
$=\displaystyle\frac{\sqrt{4}-\sqrt{3}-\sqrt{2}}{(\sqrt{4}-\sqrt{3})^2-2}$
$=\displaystyle\frac{\sqrt{4}-\sqrt{3}-\sqrt{2}}{4-2\sqrt{12}+3-2}$
$=\displaystyle\frac{\sqrt{4}-\sqrt{3}-\sqrt{2}}{5-4\sqrt{3}}$
$=\displaystyle\frac{\sqrt{4}-\sqrt{3}-\sqrt{2}}{5-4\sqrt{3}}\times \displaystyle\frac{5+4\sqrt{3}}{5+4\sqrt{3}}$
$=\displaystyle\frac{(\sqrt{4}-\sqrt{3}-\sqrt{2})(5+4\sqrt{3})}{25-16\cdot 3}$
$=\displaystyle\frac{5\sqrt{4}+4\sqrt{12}-5\sqrt{3}-4\cdot 3-5\sqrt{2}-4\sqrt{6}}{-23}$
$=\displaystyle\frac{2-3\sqrt{3}+5\sqrt{2}+4\sqrt{6}}{23}$
これで有理化ができました。たとえ分母にルートが3つ入っていたとしても、こうやって有理化の鉄則 $(\sqrt{a}+\sqrt{b})(\sqrt{a}-\sqrt{b})=a-b$ に当てはめれば意外と解けてしまうんです。
このように「未知の問題に対して自分の知っている武器で戦う」という姿勢は、有理化に限らず、大学入試全般においてとても大切なことなので、今の問題もぜひ自分で解いてみて、「解ける」という実感を体で憶えてみて下さい。一見難しそうに見える問題でも、基本に立ち返って地道に計算を進めれば意外と解けたりするものなんです。
そしてそのために大切なことは、わからない問題にぶち当たった時、まずは自分の知っている形に翻訳してみることです。
問題文をそのまま額面通りに受け取ると難しいことでも、それをなんとか自分の持っている知識で切り崩せないか?と考えて多角的に問題に取り組んでいると、わりと解けたりするんです。
では最後に、少し応用を利かせた問題にチャレンジしてみましょう。
問
ここまでくればもう有理化そのものはアッサリできるはずです。
$x=\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-1}$
$=\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-1}\times \displaystyle\frac{\sqrt{2}+1}{\sqrt{2}+1}$
$=\displaystyle\frac{\sqrt{2}+1}{2-1}$
$=\sqrt{2}+1$
ここまではいいですよね。問題はここからです。つまり誰もが感じたであろう疑問、「マジで4乗するのか?」ということです。一応マジで4乗してもいいです。$x=\sqrt{2}+1$ ですから、4乗したところでたいした計算量ではないでしょう。
ただ、もう一つのアプローチもあります。なんとか楽できないかな?と思って式をこねくり回していると、ある式が導けることに気付いた人もいるかもしれません。
$x=\sqrt{2}+1$
$⇔x-1=\sqrt{2}$
$⇔(x-1)^2=2$
$⇔x^2-2x-1=0$ ・・・①
なんかよくわからないけど二次式が出てきました。ここでは①としておきましょう。ここで問題の式を振り返ってみると$x^4-2x^3-x-2$です。四次式ということは、①に何かしらの2乗式をかけて、そこからさらに足し算引き算をすれば、問題の式になるのでは?と考えればよいです。
そして①の値は0なので、その何かしらの2乗式が何であれ、かければキャンセルされる。そうするとあとは残りカスを計算すればいいだけ。簡単になるはず。そういう解き方をするんです。
つまり問の式を①で割り算すればいいのです。実際にやってみましょう。と言いたいのですが、整式の割り算をパソコンで表示させる方法が今ちょっとわからなくて、スミマセン計算過程を表示できないです。よければ計算して確かめてみて下さい。
結果から言うと、整式の割り算(問の式を①で割ること)によって、問の式は次のように分解できます。
$x^4-2x^3-x-2=(x^2-2x-1)(x^2+1)+x-1$
そして①を振り返ってみると $x^2-2x-1=0$ です。ということは問の式は
$x^4-2x^3-x-2$
$=(x^2-2x-1)(x^2+1)+x-1$
$=0\times (x^2+1)+x-1$
$=x-1$
と簡単にすることができます。そうすれば後はこの残りカスを計算するだけ。
$x-1=\sqrt{2}+1-1=\sqrt{2}$
よって答えは
$x^4-2x^3-x-2=\sqrt{2}$
となります。
$x=\sqrt{2}+1$ をひたすら4乗してゴリゴリ計算を進める解き方と、整式の割り算をする解き方、どちらが早いか?というと微妙なところですが、ただ一応こういうアプローチもありますよということで。問題を多角的に切り崩していくと簡単にできる場合もありますよという一例として紹介しておきました。